設備・機材

当研究室で保有する設備や機材を紹介します.レーダの実験で必要となる簡易電波暗室やベクトル・ネットワーク・アナライザをはじめ,ミリ波レーダ装置とそれを搭載するための産業用ドローンなど,まだ少ないですが基本的な設備や機材はそろっています.今後も拡充していく予定です.

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簡易電波暗室

電波暗室とは電波の反射を低減する電波吸収体を壁や床・天井に敷き詰めた部屋のことです.電波にとっては,あたかも無限に広い空間が広がっているような状況を作り出すようなイメージです.アンテナ測定やレーダでは不要な反射をできるだけ低減させたうえで実験を行うことが望ましく,その際にこの電波暗室が活躍します.当研究室では縦3.7 m,横2.6 m,高さ1.8 m程度の簡易的な電波暗室を保有しています.利用している電波吸収体は私が前職の富士通システム統合研究所に勤務していた時に会社の電波暗室を廃棄することになり,譲渡いただきました.電波暗室の壁に接着剤で張り付いている電波吸収体を仕事が終わった後にスクレーパーでせっせと剥がしていたのを思い出します.

謝辞:本電波暗室の構築に用いた電波吸収体は富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社(FDNS)のご厚意により寄贈いただいたものです.ここに深く感謝を申し上げます.
謝辞:本電波暗室の構造体の一部をエヌツール社(富山県入善町)に製作いただきました.ここに深く感謝を申し上げます.

HP 8510Cベクトル・ネットワーク・アナライザ

ベクトル・ネットワーク・アナライザ(Vector Network Analyzer: VNA)とはアンテナや高周波回路の周波数特性を測定するのに用いる測定器ですが,当研究室では専らレーダの送受信機として使用しています.当研究室で保有するHP 8510Cは30年以上前(1985年発表)に購入された古い機器ですが現在も大切に使用しており,まだ現役で稼働しています.50 GHzまでの周波数で測定が行えます.様々な中心周波数・帯域幅で信号処理アルゴリズムの実験検証が行えるため,研究では大変重宝します.簡易電波暗室とともに,当研究室の主要な研究設備となります.

参考:HP 8510 Network Analyzer at Work

謝辞:本VNAは富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社(FDNS)のご厚意により寄贈いただいたものです.ここに深く感謝を申し上げます.

産業用ドローンDJI Matrice 350 RTK

DJI Matrice 350 RTKは産業用の比較的大型なドローンで,当研究室では2台保有しています.2 kg程度までのペイロードであれば積載が可能で,ミリ波レーダ装置を搭載したレーダ観測の実験に用いています.また,RTK-GNSSと呼ばれる技術により,センチメートル単位の精密な測位が可能です.写真右側がドローン本体,左側の三脚に固定されているものがRTK-GNSS測位を実現する基準局(D-RTK2)とGNSSローバー(FJD Trion V10i)です.

各種ホーンアンテナ

電波を空間に放射し,また到来した電波を受け取るのがアンテナの役割です.1 GHz程度から40 GHz程度まで,様々なホーンアンテナを保有(写真は一部借用品)しています.アクリル製の治具は下に示す卓上CNCフライス盤Kitmillを用いて自前で加工したものです.

RCS測定用模型

レーダ散乱断面積(Radar Cross Sectoin: RCS)の測定に用いる航空機模型(株式会社日南製)です.Kratos XQ-58 Valkyrieという無人機を模したものになっており,実機の1/20スケールと1/40スケールの模型があります.写真左側の模型は樹脂製の模型に導電性の塗料(銅の粉末を含んだ塗料)を塗布して製作したもので,金属製と同等の模型を安価に製造できることを実証するためのものです.これらの模型は3D CADモデルをもとにCNCにより精密加工したもので,数値電磁界解析によるRCSの計算結果と測定結果とを比較でき,RCS測定法の評価に用いることができるようになっています.一点物の高価な模型なので,慎重な取り扱いが求められます.(写真右側の大きな金属製模型は,某宅配業者が模型が梱包された箱を輸送中に落下させて一部曲がってしまいましたが,日南さんの加工技術できれいに修復していただきました.宅配便は放り投げられると思って厳重な梱包が必要です.)

謝辞:本RCS測定用模型は富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社(FDNS)のご厚意により寄贈いただいたものです.ここに深く感謝を申し上げます.

ミリ波レーダ装置

車載レーダなどで利用されるものと同等のミリ波レーダ装置です.当研究室ではPTM社・サクラテック社の24 GHz/79 GHzミリ波レーダ装置を保有しています.小型なため,ドローンや台車ロボットに搭載してレーダ観測実験を行うことが可能です.

謝辞:ミリ波レーダ装置はピーティーエム株式会社およびサクラテック株式会社より技術協力いただいています.ここに深く感謝申し上げます.

RTK-GNSS基準局

工学部電気棟の屋上に設置してあるRTK-GNSSの基準局です.RTK-GNSSは緯度経度が既知の基準局と実際に測位を行いたい移動局の二つが必要ですが,このうちの基準局の役割を果たすものです.本基準局にはインターネット回線を介してアクセスすることができ,移動局を携帯電話のテザリングなどでインターネットへ接続し,この基準局から測位情報を受け取ることで,センチメートル単位の測位を実現します.

本基準局の開設は学内での手続きや屋上のネットワーク配線工事など,技術面以外の部分で結構苦労しました.

台車ロボット メガローバーF120

ヴイストン株式会社製の研究開発用台車ロボット メガローバーF120です.120 kgまでの積載量に耐えることができ,レーダをはじめとして様々なセンサや制御用PCなどを搭載して走行実験が行えます.台車前後にレーザ距離計(Laser Range Finder: LRF)を搭載し,SLAM(Simultaneous Localization and Mapping, 自己位置推定とマッピングの同時実行)による台車ロボットの自己位置推定と環境地図作成が同時に行えます.本台車ロボットを用い,現在車両搭載型の合成開口レーダ実験を計画しています.

謝辞:本研究開発用台車ロボットはスズキ財団の2024年度研究助成により購入したものです.ここに深く感謝申し上げます.

測定用ターンテーブル

電動で動作する回転台です.以下で紹介している卓上CNCフライスKitmillによるアクリル板加工と制御用マイコンボードのArduino,中国製の安価な回転ステージを用いて自作したものです.0.01°程度の角度分解能は実現できるようです.アンテナ測定用の電動回転台は購入すると大変高価(100万円以上)なものですが,このように自作すれば5万円以内で済みます.制御用のArduinoファームウェアとMATLABによる制御ソフトは学生(2024年度M2修了の伊藤君)が作ってくれました.少しでも電子工作ができると,このような色々な実験器具の製作を業者に頼まずとも自分たちで出来るようになって楽しいですし,お金も節約できます.

※写真はRoSAR実験用のアンテナを固定した状態です.ターンテーブルに一定間隔で穴が開いており,色々なアタッチメントを接続できるようになっています.

電動昇降装置

電動で動作する昇降装置です.アンテナやレーダ装置を固定し,様々な高さから電波の送受信を行うのに用います.こちらも回転台と同様,中国製の安価なリニアガイドをアルミフレームに固定して自作したもので,制御はArduinoです.これを回転台と組み合わせて動作させると,円筒状のアンテナ走査が実現できます.

卓上CNCフライス盤Kitmill CL420

CNCフライスとはコンピュータで制御された回転工具により,設計した通りに板などを削り出す工作機械です.実験に用いる各種治具の製作に利用します.富山大学では大学内にある機械工場に部品の加工を依頼することも可能ですが,卓上CNCフライス盤ではちょっとしたアイディアをすぐに形にでき,設計変更も容易なことが強みです.当研究室ではオリジナルマインド社Kitmill CL420を保有しています.

FDM方式3DプリンタCreality CR-10 Smart Pro

Creality社のCR-10 Smart Proです.造形方式は熱溶解積層(Fused Deposition Modeling: FDM)方式と呼ばれ,半液状に溶かした熱可塑性プラスチック材料を一層ごとに積み重ねて造形を行う,3Dプリンタでは最も一般的な方式です.造形の精度はCNCフライスほど高くないものの,扱いが簡単でCNCフライスと同様に実験に用いる治具を製作するのに利用しています.CNCフライスは扱いに経験とノウハウが必要ですが,3Dプリンタではモデルさえ作ってしまえば複雑な三次元形状でも簡単に出力することが可能です.3Dプリンタ周囲の温度をある程度高温に保ち,プリントの成功率を上げるため,専用のエンクロージャー内にプリンタを設置しています.

スペクトラム・アナライザHP 8563E

電波の周波数スペクトラムを計測する機器(HP 8563E)です.9 kHz~26.5 GHzまで対応しています.こちらも大変古い機材でVNAと同様にFDNS社から譲ってもらったものですが,現状あまり活用できていません.

ソフトウェア関係

研究で使用する主なソフトウェアです.

MATLAB

信号処理アルゴリズムは基本にMATLABで実装しています.富山大学学生であればだれでも使用可能です(研究室で購入・維持しなくてよいのはありがたいです).

Altair FEKO

電磁界シミュレーションソフトです.現状は主にRCS測定の参照解を出力するのに使用しています.

本ソフトウェア(FEKO)はアルテア 研究サポートプログラムにより貸与いただいているものです.ここに深く感謝申し上げます.

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