はじめに:RCSとその測定の難しさ
レーダ散乱断面積(Radar Cross-Section: RCS)は,レーダによる観測の対象物を特徴づけるもっとも基本的なパラメータです.防衛分野はもとより,5G/6G通信のエリア形成で注目されるメタサーフェスやRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)の反射特性の把握,車載レーダによる車両・歩行者・路上落下物の検知や識別など,身近な分野でもレーダ技術の活用が進んでおり,RCSの測定技術は今後さらに重要性が高まると見込まれます.一方で,測定設備の小型化をはじめとするRCS測定の低コスト化が強く要請されています.
RCSは本来,遠方界(送受信アンテナから見て入射波が平面波とみなせる領域)で定義される量です.測定距離を \(r_0\),入射界を \(E^i\),散乱界を \(E^s\) とすると,RCS \(\sigma\) は次式で定義されます.
$$\sigma = \lim_{r_0 \to \infty} 4\pi r_0^2 \left| \frac{E^s}{E^i} \right|^2$$
ここで問題になるのが遠方界条件です.目標の代表寸法を \(D\),波長を \(\lambda\) とすると,遠方界とみなすには測定距離が \(r_0 > 2D^2/\lambda\) を満たす必要があります.たとえば10 GHz(\(\lambda \approx 3\;\mathrm{cm}\))で \(D = 1\;\mathrm{m}\) の目標であれば,必要な測定距離は66.7 m以上となります.目標が大きいほど,また周波数が高いほど必要距離は急速に増大するため,実機規模の目標を遠方界で直接測定することは容易ではありません.
RCS測定方法の3つの分類
RCSの測定方式は,大きく「直接測定」「コンパクトレンジ」「近傍界遠方界変換(Near-Field-to-Far-Field Transformation: NFFFT)」の3種類に大別できます.それぞれの概要と利点・欠点を表1に示します.本ページで扱うのは3番目のNFFFT,特にレーダ画像を経由する画像方式NFFFTです.
| 方式 | 概要 | 利点 | 欠点 |
|---|---|---|---|
| 直接測定 | (準)遠方界を確保して測定 | 十分な遠方距離を確保できれば直接RCSを測定可能 | 広大な用地が必要.対象物が大きいほど,また周波数が高いほど必要距離が増大.屋外では地面や周辺構造物からの反射,天候が測定結果に影響 |
| コンパクトレンジ | 精密な反射鏡で平面波を生成し遠方界を模擬 | 近傍界での測定が可能 | 高精度の反射鏡の維持が必要(高額な初期費用と維持費用).測定対象物が大きいほど大型の反射鏡が必要.反射鏡のエッジからの散乱 |
| 近傍界遠方界変換(NFFFT) | 信号処理により近傍界の測定値を遠方界に変換 | 近傍界での測定が可能.小規模な施設で測定可能 | 多くの手法で多重反射を考慮できない(等価的な単一散乱としての表現).サンプリング条件を満たすために細かい角度ステップの測定が必要 |
画像方式NFFFTの全体像
画像方式NFFFTは,次の3ステップから構成されます(図1).
- STEP1: 近傍界測定 目標の周囲でアンテナを走査し,各周波数・各角度における散乱界を測定します.
- STEP2: 画像再構成 測定値から目標をレーダ画像として再構成します.これは逆散乱問題(Born近似)を解く過程に相当し,得られた画像は「反射係数 \(C_i\) をもつ点散乱体が位置 \(\boldsymbol{r}_i\) に分布したもの」と解釈できます.
- STEP3: RCSの算出 再構成された点散乱体分布から,順散乱問題として任意の位置の散乱界を計算します.すなわち \(E^s(k, \boldsymbol{r}) \propto \sum_i C_i \exp\left(-j2k\left|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_i\right|\right)\) を用いることで,RCSが定義される遠方界(\(|\boldsymbol{r}| \to \infty\))を含む任意の位置における散乱界を算出できます [1][2].

実測例を図2に示します.小型の電波暗室内で航空機模型の近傍界を測定し(STEP1),レーダ画像を再構成し(STEP2),そこから遠方界RCSの方位角パターンを算出しています(STEP3).

基礎理論
以下では議論を簡単にするため,二次元・円軌道走査・ステップ周波数レーダを仮定して定式化します.三次元や任意の走査曲面への拡張については後述します.
単一点散乱体の受信信号モデル
図3のように,原点を中心とする半径 \(r_0\) の円軌道上を等方性アンテナが走査し,位置 \((x_1, y_1)\) に反射係数 \(C_1\) の点散乱体が置かれている状況を考えます.方位角を \(\phi\),波数を \(k = \omega/c = 2\pi f/c = 2\pi/\lambda\) とすると,受信信号は往復の伝搬遅延に対応する位相回転として次式で表されます.

$$E^s(k,\phi) = C_1 \exp\left[-j2k\,r_1(\phi)\right]$$$$r_1(\phi) = \sqrt{\left(r_0\cos\phi – x_1\right)^2 + \left(r_0\sin\phi – y_1\right)^2}$$
実際の測定では周波数と方位角が離散化され,\(k_m = m\Delta_k\),\(\phi_n = n\Delta_\phi\)(\(m, n \in \{1, 2, \ldots\}\))として \(E^s(k_m, \phi_n)\) の二次元データが得られます.ここでの要点は,散乱体の反射係数 \(C_1\) と位置 \((x_1, y_1)\) さえ決定できれば,任意の位置の散乱界が計算できるという点です.未知数はこの2つだけであり,これらを測定値から推定する過程が次の画像再構成にあたります.
画像再構成
目標が完全に収まる範囲に画素(格子点)\((x_i, y_i)\) を設定し,アンテナから画素位置までの伝搬に伴う位相を打ち消すような係数を受信データに乗算して足し合わせます.これがいわゆる逆投影法(Backprojection)です.
$$C(x_i, y_i) = \sum_m \sum_n E^s(k_m, \phi_n)\exp\left[+j2k_m\,r_i(\phi_n)\right]$$
画素位置と点散乱体の位置が完全に一致する場合,指数関数の位相が相殺されて総和は \(C_1\sum_m\sum_n 1\) となり,すべての周波数・角度の寄与が同位相で足し合わされて大きな値になります.一方,位置が一致しない場合は残留位相 \(\exp\left[-j2k_m\left(r_1(\phi_n) – r_i(\phi_n)\right)\right]\) が残り,複素平面上でベクトルが回転しながら加算されるため,互いに打ち消し合って小さな値となります.この差によって散乱体の位置が画像として浮かび上がります.
図4に,中心周波数1 GHz,帯域幅500 MHz,周波数刻み10 MHz,軌道半径3 m,角度刻み0.5°の条件で2個の点散乱体を模擬した数値例を示します.受信信号(周波数-方位角平面)を周波数方向にIFFTするとレンジプロファイルの方位角依存性が得られ,さらに逆投影法を適用すると2個の散乱体が画像上の正しい位置に再構成されます.

画像から散乱界とRCSを算出する
再構成した画像 \(C(x_i, y_i)\) を点散乱体の集合とみなせば,任意の走査半径・任意の周波数・任意の方位角における散乱界を次式で計算できます.
$$E^s(k,\phi) = \sum_i C(x_i, y_i)\exp\left[-j2k\,r_i(\phi)\right]$$
ここで \(r_0 \to \infty\) とすれば遠方界が,すなわちRCSが計算できます.また,波数(周波数)や方位角は測定時よりも細かく設定できるため,測定点の間を補間したRCSパターンを得ることも可能です.
上式を積分形で表し,遠方界(\(r_0 \gg r\))における近似 \(r \approx r_0 – \left(x\cos\phi + y\sin\phi\right)\) を代入すると,次のように整理できます.
$$E^s(k,\phi) \approx e^{-j2kr_0}\iint C(x,y)\,e^{jk_x x}e^{jk_y y}\,dx\,dy = e^{-j2kr_0}\,\mathcal{F}^{-1}_{(x,y)}\left[C(x,y)\right]$$$$k_x = 2k\cos\phi,\qquad k_y = 2k\sin\phi$$
すなわち画像のFourier変換が遠方界に対応するという,たいへん見通しのよい関係が得られます.入射界を \(E^i = \exp(-jkr_0)\) とし,本ページでは簡単のためRCSを \(\sigma = \lim_{r_0 \to \infty}\left|E^s/E^i\right|^2\) と定義すると,最終的に次式に帰着します.
$$\sigma(k,\phi) = \left|\mathcal{F}^{-1}_{(x,y)}\left[C(x,y)\right]\right|^2$$
実装上は,方位角ごとに空間周波数 \((k_x, k_y)\) を計算し,画像に \(\exp(jk_x x_i)\exp(jk_y y_i)\) を掛けて画素について総和を取り,その絶対値の二乗を求めるだけです.効率を気にせず単純に実装するだけであれば,画像再構成もRCS算出も数十行程度で書けます(実際のプログラムではFFTの活用とGPUによる高速化が重要になります).
補正関数の導入
何が問題になるのか
ここまでの素朴な定式化には落とし穴があります.単一の点散乱体を置いただけであるにもかかわらず,散乱体が回転中心(原点)からずれるほどRCSの算出誤差が増大するのです.図5に示すように,原点にある画素から見ればアンテナの角度サンプル点は等間隔に並びますが,原点からずれた画素から見ると角度サンプリングが不均一になります.画像再構成の総和は各サンプル点を等重みで足し合わせているため,この不均一性が系統的な誤差として現れます.

補正関数の導出
そこで,画像再構成の結果が理想的な画像(デルタ関数)となるように,重み \(g\) を導入します.画像再構成式を積分形で書き,補正関数 \(g\) を挿入します.
$$C(x,y) = \int_{0}^{\infty}\!\!\int_{0}^{2\pi} E^s(k,\phi)\exp\left(+j2kr\right)g\;d\phi\,dk$$
ここに単一点散乱体の受信信号モデルを代入し,点散乱体の近傍で距離差 \(r – r_1\) をTaylor展開により近似します(\(\alpha\) は点散乱体から見た局所的な方位角).
$$r – r_1 \approx \left(x – x_1\right)\cos\alpha + \left(y – y_1\right)\sin\alpha$$
空間周波数を \(k_x = 2k\cos\alpha\),\(k_y = 2k\sin\alpha\) と定義して \((k, \phi)\) から \((k_x, k_y)\) への置換積分を行うと,理想的な画像 \(C(x,y) = C_1\delta(x – x_1)\delta(y – y_1)\) をデルタ関数の積分表示と比較することで,補正関数の一般形が定まります.
$$g = \frac{1}{(2\pi)^2\left|J\right|},\qquad \frac{1}{J} = \frac{\partial(k_x, k_y)}{\partial(k, \phi)} = 4k\,\frac{d\alpha}{d\phi}$$
ここで \(J\) は置換積分のヤコビアンであり,\(d\alpha/d\phi\) は「アンテナ走査角 \(\phi\) の微小変化に対する局所方位角 \(\alpha\) の変化率」,すなわち先ほどの角度サンプリングの不均一性そのものを表す量です.円軌道の場合は次のように陽に求まります.
$$\frac{d\alpha}{d\phi} = \frac{r_0}{r_1^2}\left(r_0 – x_1\cos\phi – y_1\sin\phi\right)$$$$g = \frac{4k\,r_0}{(2\pi)^2 r_1^2}\left(r_0 – x_1\cos\phi – y_1\sin\phi\right)$$
プログラム上の変更も軽微で,画像再構成の内側のループで補正関数を計算し,受信データに掛ける項を1つ増やすだけです.
補正関数の効果
図6に補正関数の有無による比較を示します.散乱体が原点にある場合(各図の左)はどちらもRCSが理論値と一致しますが,散乱体を原点から1 mずらした場合(各図の右),補正関数なし(\(g = 1\))では正面方向で6 dB近い誤差が生じます.補正関数を導入すると,位置によらず理論値とよく一致するRCSが得られます.

ここまでのまとめ
- RCSの測定方式は,直接測定・コンパクトレンジ・近傍界遠方界変換(NFFFT)の3種類に大別されます.
- 画像方式NFFFTは,近傍界散乱測定 → 画像再構成(受信信号に逆位相と補正関数を掛けて和を取る)→ 画像のFourier変換によるRCS算出,という3ステップで構成されます.
- 補正関数は角度サンプリングの不均一性を補償する役割を担います.円軌道を仮定して議論を進めましたが,任意の閉曲線走査系でも微分係数の算出以外はまったく同じ議論が可能です.
- 二次元を仮定しましたが,曲面走査系による三次元画像へも拡張できます(後述).
研究事例1:航空機模型のRCS測定
RCS測定の低コスト化には,測定設備の小型化だけでなく,測定用モデルそのものの製造コスト低減も重要です.そこで,(1) 金属製モデルのRCS測定を導電性塗料を塗布した樹脂製モデルで代替できるか,(2) 小型の縮小モデルの測定で大型モデルの測定を代替できるか,(3) 画像方式NFFFTがそこで有効に働くか,の3点を検証しました.これらが成立すれば,樹脂製かつ小型のモデルだけで実規模の金属製モデルのRCS測定を安価に実現でき,航空機等の機体設計費の低減につながります.
まず基礎検討として,単純な砲弾型の試験モデル(全長10 cm程度,図7)を高密度・低密度の2種類の樹脂で製作し,銀入り銅合金フィラーの導電性塗料を塗布して評価しました.使用した材料を表2に示します.
| 項目 | 諸元 |
|---|---|
| 高密度材料 | サンモジュール MAX(0.64 g/cm3) |
| 低密度材料 | サンモジュール SX(0.26 g/cm3) |
| 導電性塗料 | 藤倉化成 ドータイト |
| フィラー(導電性混合物) | 銀入り銅合金(Ag-Cu) |
| 電気抵抗率 | 5 × 10−4 Ω·cm |

試験モデルのRCS測定では,XバンドおよびKバンドのいずれにおいても,高密度モデルで平均誤差0.6〜0.9 dB,低密度モデルで2.0 dBと,電磁界解析によるシミュレーション値と良好に一致しました.すなわち,密度の高い樹脂に導電性塗料を塗布したモデルは金属製モデルの代替として十分な精度をもつことが確認できます.
続いて実際の航空機形状(XQ-58A Valkyrieを模した形状)について,材質(アルミ/樹脂)とスケール(1/20/1/40)を組み合わせた4種類のモデルを製作しました(表3,図8).
| 名称 | 材質 | スケール | 測定周波数 |
|---|---|---|---|
| Model-AX | アルミ | 1/20 | Xバンド |
| Model-AK | アルミ | 1/40 | Kバンド |
| Model-RX | 樹脂(導電塗料塗布) | 1/20 | Xバンド |
| Model-RK | 樹脂(導電塗料塗布) | 1/40 | Kバンド |

測定結果(HH偏波)を図9に示します.Xバンドにおける金属製モデル(Model-AX)と樹脂製モデル(Model-RX)のRCSパターンはよく一致しており,またKバンドで測定した1/40モデル(Model-AK,Model-RK)のRCSをXバンド相当に換算した結果も,1/20モデルの結果とよく一致しています.いずれも数値電磁界解析によるシミュレーション値と整合しており,材質の代替とスケール則の双方が成立することが実験的に確認されました.

研究事例2:画像に基づく複数目標のRCS合成
車載レーダをはじめとする民生分野の応用では,単一目標だけでなく複数目標が混在する状況のRCSが問題になります.しかし複数目標の実測は,目標の製作費用と配置を変えながらの測定時間の両面で高コストです.そこで,単一目標のレーダ画像から複数目標のレーダ画像とRCSを模擬する手法を検討しました [3].
手順は図10のとおりです.(STEP1) 合成の元となる単一目標の画像(基本画像)を測定または解析で用意し,(STEP2) 基本画像を回転・平行移動して所望の配置の変換画像を作り,(STEP3) それらを重ね合わせて合成画像とし,(STEP4) 合成画像を二次元Fourier変換してRCSを算出します.画像が点散乱体の分布であることを利用した,きわめて単純な操作です.

| 項目 | 諸元 |
|---|---|
| 偏波 | HH |
| 中心周波数 | 10.2 GHz |
| 帯域幅 | 4 GHz |
| 周波数サンプリング間隔 | 20 MHz |
| 角度サンプリング間隔 | 0.4° |
| 角度範囲 | [0°, 360°] |
| 走査軌道半径 | 2 m |
まず,2個の三面コーナリフレクタを30 cm間隔で並べた配置について,実際に2個を配置して測定した「実画像・実RCS」と,1個の測定結果から合成した「合成画像・合成RCS」を比較しました(図11).開口の向きをY軸方向とした場合の平均誤差は3.1 dB,X軸方向とした場合は3.5 dBであり,RCSパターンの形状はよく再現されています.

さらに,前節の航空機モデル(金属製・樹脂製)を30 cm間隔で並べた場合についても検証しました(図12).合成画像は実画像の特徴をよく再現しており,RCSの平均誤差は2.6 dBでした.単一目標の測定結果だけで,複数目標の配置を変えながらのRCS評価が可能になることを示しています.

研究事例3:円軌道航空機SARによるRCS測定
電気長の大きな物体ほど遠方界測定は困難になります.一方で測定方法は多様化しており,屋内/屋外,ターンテーブル/車載/航空機搭載といった様々な形態が考えられます.そこで,任意の曲線軌道を用いた合成開口レーダにより,小規模(小型電波暗室内)から中規模(車載レーダによる車両),大規模(航空機搭載レーダによる船舶)まで,様々な規模の目標に対応するマルチスケールRCS計測の実現を目指しています(図13).

その実証として,航空機搭載レーダによる円軌道SAR(Circular SAR)データを用いたRCS測定を行いました.実験諸元を表5に示します.高度約7.3 kmを飛行する航空機が半径約7.3 kmの円軌道を描く構成で,実際の飛行軌道は風などの影響で「歪曲した円形」となります.図14にレーダ軌道と方位角に対する軌道半径の変動を示します.前述のとおり,補正関数は一般の曲線走査系に対しても微分係数を求めれば適用できるため,このような歪んだ軌道でも同じ枠組みで扱えます.
| 項目 | 諸元 |
|---|---|
| 偏波 | HH, HV, VH, VV |
| 中心周波数 | 9.6 GHz |
| 帯域幅 | 622 MHz |
| 周波数間隔 | 1.5 MHz |
| アンテナ走査曲線 | 歪曲した円形 |
| 角度範囲 | [−180°, 180°] |
| 角度間隔(平均) | 8.5 × 10−3 度 |
| アンテナ高さ(平均) | 7266 m |
| アンテナ走査円の半径(平均) | 7265 m |

解析対象は,一辺38.1 cmの三面コーナリフレクタ(TR1),一辺30.5 cmの矩形二面コーナリフレクタ(DR1),および駐車場に駐車した乗用車(PV1,全長445 cm・全幅171 cm・全高141 cm)です.別の三面/二面コーナリフレクタ(TR2, DR2)をRCS算出の校正ターゲットとして,また2箇所の地面(GS1, GS2)をアンテナパターンの推定と補正に使用しました.
図15にRCS測定結果を示します.三面コーナリフレクタ(HH偏波)および二面コーナリフレクタ(HV偏波)については,MLFMM(Multi Level Fast Multipole Method)による電磁界解析結果とよく一致しました.地面からの反射に起因する成分や,二面コーナリフレクタからの寄与も明瞭に確認できます.乗用車については3Dモデルが無いため実験結果のみですが,方位角に対する典型的なRCSパターンが得られています.

研究事例4:偏波解析の適用
同じ円軌道SARデータに対し,偏波情報を活用した解析も行いました.Backprojection法により空間領域のCSAR画像(100 m × 100 m)を再構成し,空間領域の偏波CSAR画像に直接Pauli分解を適用します.奇数回反射(HH+VV)を青,偶数回反射(HH−VV)を赤,ランダム散乱成分(\(\sqrt{2}\,\)HV)を緑としてカラー合成した結果が図16です.画像左上に校正ターゲット群が,下半分に駐車場が確認でき,駐車場内に配置されたコーンのような微細な構造まで画像化できています.

校正ターゲット付近を拡大すると,三面コーナリフレクタ,矩形二面コーナリフレクタ,トップハットリフレクタのそれぞれが,散乱機構に応じた色で描出されます.特に22.5°/45°傾けた二面コーナリフレクタでは偏波面が回転するため,HV成分が支配的になる様子が明瞭に現れます.また,トップハットリフレクタについては −30° 方向で受信電力が低下しており,これはその方向に別の物体が存在して電波が遮蔽されたためと解釈できます.円軌道SARでは目標を全方位から観測するため,このような遮蔽の効果まで方位角依存性として捉えられる点が特徴です.
研究事例5:任意曲面走査系への拡張
これまでの議論は二次元・閉曲線走査を前提としていましたが,実際の測定設備では平面走査・円筒走査・球面走査など様々なアンテナ走査曲面が用いられます.そこで,これらを含む任意のアンテナ走査曲面に対応可能な一般化NFFFT理論を確立しました [1](図17).走査曲面を2つのパラメータ \((u, v)\) で表し,二次元の場合と同様にヤコビアンを介した補正関数を導出することで,三次元画像の再構成と,方位角方向に加えて仰角(天頂角)方向のRCS算出が可能になります.

図18にシミュレーション結果を示します.補正関数なしの従来手法では点散乱体以外の位置に非所望の応答が生じ,空間周波数スペクトラムも歪むため,特に天頂角方向のRCS算出が不正確になります.提案手法では点散乱体の位置を中心とした対称な応答が得られ,RCS算出精度も改善します.

実験検証は,XQ-58A Valkyrieを模した1/20スケールの航空機モデル(全長52.0 cm)を対象に,円筒走査(走査円筒半径1 m,高さ方向 [−25, 25] cm を1 cm間隔,角度間隔0.8°)で実施しました(表6).補正関数の効果を分かりやすくするため,目標は回転中心から意図的にずらして配置しています.
| 項目 | 諸元 |
|---|---|
| 中心周波数 | 10.2 GHz |
| 帯域幅 | 4 GHz |
| 周波数間隔 | 10 MHz |
| 偏波 | HH, VV |
| アンテナ走査曲面 | 円筒 |
| 角度の走査範囲 | [−180°, 180°] |
| 角度の走査間隔 | 0.8° |
| 高さ方向(\(z\)軸方向)の走査範囲 | [−25, 25] cm |
| 高さ方向の走査間隔 | 1 cm |
| 走査円筒の半径 | 1 m |
| 目標 | 航空機モデル(1/20スケール) |
MLFMMによる電磁界解析で求めた遠方界RCSを真値として平均RCS推定誤差を評価した結果を表7に示します.方位角方向で0.8〜1.8 dB,天頂角方向で0.6〜2.8 dBの改善が得られ,特に天頂角方向での改善が顕著です.図19に示すRCSパターンの比較でも,提案手法の方が解析値との一致が明らかに良好です.
| 方向 | 偏波 | 従来手法 | 提案手法 |
|---|---|---|---|
| 方位角方向 | HH | 5.8 dB | 5.0 dB |
| 方位角方向 | VV | 6.4 dB | 4.6 dB |
| 天頂角方向 | HH | 5.5 dB | 2.7 dB |
| 天頂角方向 | VV | 2.9 dB | 2.3 dB |

まとめと今後の展望
本ページでは,画像方式NFFFTの基礎理論と,それを活用した研究事例を紹介しました.高精度なRCS算出には補正関数の導入が不可欠であること,そしてその枠組みが電波暗室内の小型模型から航空機搭載SARによる大規模観測まで一貫して適用できることが要点です.今後の展望としては,次のような課題に取り組んでいく予定です.
- バイスタティック構成への画像方式NFFFTの拡張
- 数メートル級航空機モデルのミリ波帯実測による技術検証
- ドローン搭載SARや車載SARなどを活用したRCS測定
- 誘電体目標やメタサーフェス等に対する有効性の検証
- 多重散乱の取り扱い
- 画像再構成およびRCS算出の高速化
謝辞
航空機モデルの塗装工程の写真は,株式会社日南様よりご提供いただきました.ここに感謝申し上げます.
参考文献
- T. Watanabe and H. Yamada, “Far-Field Radar Cross-Section Determination From Near-Field 3-D Synthetic Aperture Imaging With Arbitrary Antenna Scanning Surfaces,” IEEE Trans. Antennas Propag., vol. 70, no. 7, pp. 5831–5840, July 2022.
- T. Vaupel and T. F. Eibert, “Comparison and Application of Near-Field ISAR Imaging Techniques for Far-Field Radar Cross Section Determination,” IEEE Trans. Antennas Propag., vol. 54, no. 1, pp. 144–151, Jan. 2006.
- T. Watanabe, “Image-Based Radar Cross-Section Synthesis for a Cluster of Multiple Static Targets,” TechRxiv, 05-Oct-2022, doi: 10.36227/techrxiv.21213857.v1.
