ドローン搭載24 GHz合成開口レーダの開発と円軌道観測への応用

本ページは,2026年2月に開催された電子情報通信学会 宇宙・航行エレクトロニクス研究会(SANE研)で発表した「ドローン搭載ミリ波合成開口レーダの開発と円軌道観測への応用」(渡邉卓磨,岡本竜駕,新谷貴之)の内容を,Web向けに再構成して紹介するものです.

目次

概要

近年におけるドローン技術と民生用ミリ波レーダ技術の発展により,両者を融合したドローン搭載型のミリ波合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar: SAR)が着目されています.有人航空機や人工衛星をプラットフォームとする従来のSARと比較して,ドローンは機動的かつ変則的な飛行軌道により柔軟な観測を行えることが大きな特徴です.すなわち,従来のプラットフォームでは直線的な飛行に基づく観測が一般的であるのに対し,ドローンでは円形軌道をはじめとする各種の曲線軌道や垂直方向の軌道など,極めて自由度の高い軌道でSAR観測を実現できます.

本稿ではこの点に着目し,円形の飛行軌道で観測を行うSAR,すなわち円軌道SAR(Circular SAR: CSAR)をドローン搭載ミリ波レーダによって実現することを目的とした基礎的な検討結果を示します.円軌道SARは単にSAR画像の生成のみならず,レーダ散乱断面積(Radar Cross Section: RCS)の測定においても有用な技術であり [1],将来的には本稿で述べるシステムを大型目標のRCS測定へ活用することを予定しています.

以下では,研究室で開発したドローン搭載SARの詳細と,コーナリフレクタおよび自動車を目標としたCSAR画像の再構成結果,ドローン搭載LiDARにより取得した点群データ・オルソ画像との比較結果について報告します.

システム構成

開発したドローン搭載SARの全体構成を図1に示します.システムはドローン本体とコントローラに加えて,ドローンの精密な位置情報を取得するためのRTK-GNSS基準局,ドローンに搭載されるペイロード部(ミリ波レーダと制御部の一式)から構成されます.

ドローン搭載SARシステムの全体構成図
図1: ドローン搭載SARシステムの全体構成

ドローンとRTK測位システム

ドローンはDJI社の産業用ドローンであるMatrice 350 RTKを用いました.最大で2.73 kgまでのペイロードを搭載可能です.SAR画像の再構成には機体の精密な位置情報が必要であり,本システムではDJI社のD-RTK 2高精度GNSSモバイルステーションをRTK-GNSSの基準局として用い,補正情報をコントローラへ配信することで,センチメートルオーダの位置精度を実現しています.これにより,指定した飛行軌道でドローンを自動飛行させることが可能となるとともに,機体の高精度な位置情報をペイロードに配信することが可能となります.

ペイロード

ドローンに搭載するペイロードは,他のドローン搭載SARシステムでも一般的に用いられているRaspberry Pi 4 Model Bをベースに開発しました.図2に開発したペイロードの外観を示します.ペイロードの筐体は3Dプリンタを用いて製作し,図2(a)に示すようにミリ波レーダを取り付けています.図2(b)に示すように,ドローンとの接続にはDJIドローン用のペイロード接続インタフェースであるSkyport V2コネクタを用いました.これにより,ペイロードの脱着が容易に行えるようになっています.このコネクタから専用ケーブルを経由し,後述のRaspberry Pi拡張基板との接続を行っています.

ペイロードの外観(正面・背面)
図2: ペイロードの外観((a) 正面,(b) 背面)

ミリ波レーダ

ミリ波レーダは,PTM社の24 GHz帯FMCWレーダであるPSR24MTR11(広角ビームタイプ),同社の79 GHz帯MIMO FMCWレーダであるRFR79ITR34-30Uに加え,サクラテック社の24 GHz帯MIMOレーダであるmiRadar 8 Cardに対応しており,いずれかもしくは複数のレーダを同時に搭載し,制御することが可能です.本稿ではこのうちPSR24MTR11を実験検証に用いました.これらのレーダはUSBケーブルを介してペイロード制御を担うRaspberry Piと接続されます.

Raspberry Piと拡張基板

ミリ波レーダの制御やドローンの位置情報の取得はRaspberry Piを用いて行い,ドローンとの接続を行うための拡張基板を開発しました.図3に開発したRaspberry Pi拡張基板を示します.

開発したRaspberry Pi拡張基板
図3: 開発したRaspberry Pi拡張基板
  • (a) 電源回路:降圧型DC-DCコンバータで構成され,ドローンのバッテリーからSkyport V2コネクタを介して供給される13.6 V/4 Aの電源を5 Vまで降圧し,GPIO(General-Purpose Input/Output)端子を介してRaspberry Piに供給します.
  • (b) ドローン接続用コネクタ(Skyport V2):ドローンからのPPS(Pulse Per Second)信号が供給され,GPIO端子を介してRaspberry Piシステムに通知を行っています.これにより,ドローンの内蔵コンピュータとRaspberry Piシステムとの時刻同期をマイクロ秒オーダで実現しています.
  • (c) リアルタイムクロック(Real Time Clock: RTC):Raspberry Piがシャットダウンされた状態でも時刻を保持・更新できるようにしています.
  • (d) Raspberry Pi−ドローン接続用USBコネクタ:Raspberry PiのUSBコネクタと拡張基板をUSB接続するためのUSB-Cコネクタであり,図3中の破線で示すUART接続経路のようにSkyport V2コネクタと接続され,Raspberry Piとドローンの通信を行います.これにより,ドローンのRTK-GNSS測位情報や加速度センサからの姿勢情報の取得など,ドローンの内蔵コンピュータとの通信を実現しています.
  • (e) 電源ボタン:Raspberry Piの起動・停止が行えます.
  • (f) Linuxログイン用USBコネクタ:Raspberry Piにインストールされているlinux(Raspberry Pi OS)へシリアル接続によりログインするためのUSB-Cコネクタです.
  • (g) インジケータLED:システムの状態や接続されているレーダの状態などをユーザに通知できるようになっています.

制御ソフトウェア

図4に開発した制御用ソフトウェアの画面を示します.制御用ソフトウェアはDJI Payload SDKを用いて開発しており,ドローンのコントローラであるDJI RC Plusと統合した運用を可能としています.ドローンが所定の位置に到着したタイミングで画面上のボタンをタップするとレーダの送受信やRTK測位を開始することができ,同様に測定の終了位置にドローンが到着した時点で測定を停止することが可能です.これにより,ドローン飛行前にあらかじめレーダの送受信を始めておいたり,ドローンを着陸させてからレーダの送信を停止したりといった操作が不要になり,効率的な測定を実現しています.

測定制御ソフトウェアの画面
図4: 測定制御ソフトウェアの画面

LiDAR

図1のドローン搭載SARシステムと直接関係しませんが,ドローン搭載SARのグランドトゥルースデータ取得のため,SAR観測と併せてLiDARによる観測を行い,三次元点群データおよび二次元オルソ画像の再構築を行っています.使用したLiDARはDJI社のZenmuse L2です.

実験検証

上記のドローン搭載SARシステムに基づき,基礎実験として円形の飛行経路を用いたSAR観測を行いました.以下ではその結果をまとめます.

実験概要

各所から必要な許可を得たうえで,富山大学の第一グラウンドにてドローンの飛行を実施しました.図5に実験配置を示します.x軸の正方向は東に,y軸の正方向は北に対応しています.円軌道の中心に目標を配置し,半径50 mの円軌道でミリ波レーダを搭載したドローンを飛行させました.図5に示すように,グラウンド上には目標以外にもサッカーゴールとラグビーゴールが設置されています.なお,以降の議論では方位を表す角度は図5に示す極角表示(すなわちx軸の正から反時計回りにとった角度で,北・南・東・西がそれぞれ90°,−90°,0°,±180°に対応)とし,これを単に方位角と呼ぶことにします.

実験配置図
図5: 実験配置

実験諸元

表1に実験諸元を示します.偏波はVV偏波の単偏波であり,中心周波数は24.15 GHz,帯域幅は187.5 MHzです.軌道形状は先述のとおり円軌道であり,軌道半径は50 m,ドローンの飛行高度は2 m,飛行速度は1 m/sとしました.なお,これらはドローンのコントローラに入力した目標値であり,実際には機体の動揺により目標値からのずれが生じます.

項目諸元
偏波VV
中心周波数24.15 GHz
帯域幅187.5 MHz
チャープ時間700 µs
チャープ繰り返し間隔25 ms
軌道形状円軌道
軌道半径50 m(目標値)
軌道高度2 m(目標値)
飛行速度1 m/s(目標値)
表1: 実験諸元

目標

図6に本実験でSAR観測の対象とした目標物(ターゲット)を示します.これらのいずれかを円軌道の中心付近に設置して観測を行いました.図6(a)は1辺30 cmの三面コーナリフレクタであり,開口の方向を西(方位角±180°)に向けて設置しました.図6(b)は乗用車(MAZDA CX-30,全長4.4 m,全幅1.8 m,全高1.5 m)であり,正面を北(方位角90°)に向けて設置しました.

目標物(三面コーナリフレクタと乗用車)
図6: 目標物((a) 三面コーナリフレクタ,(b) 乗用車)

飛行経路の設定

図7にコントローラにおける飛行経路の設定画面を示します.本実験で用いたドローンであるDJI Matrice 350 RTKでは曲線の飛行経路設定が行えないため,図7のように多角形(この例では72角形,5°刻みで円周上に経由点を配置)で円軌道の近似を行いました.あらかじめ決定した軌道中心の緯度経度と軌道半径よりドローンの経由点を計算で決定し,軌道情報をKML(Keyhole Markup Language)ファイルに出力してコントローラへインポートしています.レーダアンテナの開口の向きは機体の機首方位と一致させており,円形軌道の飛行にあたっては機首方位を常に円の中心に向ける,いわゆるノーズインサークル飛行を実施しました.各経由点の適切な機首方位についても計算で求め,コントローラ画面から手動で入力を行いました.

飛行経路設定画面
図7: 飛行経路設定画面

レンジプロファイル

図8に各方位角におけるレンジプロファイルを示します.図8(a)は三面コーナリフレクタ,(b)は乗用車に対応するレンジプロファイルです.いずれも最大値で正規化し,−60 dBから0 dBの範囲を表示しており,0 m〜20 m付近までに地面からの反射と考えられる強い応答が確認できます.これはドローンを2 mの高度で低空飛行させたためです.また,いずれも30 m〜60 m程度の範囲で正弦波状の応答が現れていますが,これはグラウンドに設置されたサッカーゴールからの反射です.

レンジプロファイル
図8: レンジプロファイル((a) 三面コーナリフレクタ,(b) 乗用車)

目標物は円軌道の中心付近に配置してあるため,円軌道の半径である50 m付近に存在する応答が目標物(三面コーナリフレクタ,乗用車)からの応答です.図8(a)に示すコーナリフレクタのレンジプロファイルでは,開口を向けた西側に対応する方位角±180°付近で比較的強い応答が確認できます.図8(b)に示す乗用車のレンジプロファイルは全方位角において応答が確認できます.乗用車は正面を北側(方位角90°)に向けたため,断面積が大きくなる側面に対応する東側(方位角0°)と西側(方位角−180°)付近に比較的強い応答が確認できます.後述のように実際にはやや北西にずれて配置されていたため,これら車両の側面に対応する応答のピークは方位角0°と±180°からややシフトした角度に現れています.

画像再構成

SAR画像の再構成には標準的な逆投影法(Backprojection)を用い,レーダの位置にはドローンの機体から得られるRTK-GNSSの座標を使用しました.なお,レーダの送信タイミングとRTK-GNSSのタイムスタンプは一般的に一致しないため,RTK-GNSS座標を線形補間することでレーダの送信タイミングにおける位置情報を算出しています.

SAR画像の再構成結果
図9: 画像再構成結果((a) 三面コーナリフレクタ,(b) 乗用車)

図9にSAR画像の再構成結果を示します.図9(a)は三面コーナリフレクタ,(b)は乗用車をそれぞれ目標として設置した場合の画像です.いずれの場合も,円軌道の中心に対応する原点付近で目標からの応答が確認できます.

さらに,本来目標を配置していない位置(例えば図9(a)のy = ±10 m付近でx方向に広がっている応答)にも応答が現れていますが,これはレーダの空間サンプリングが粗すぎることで生じるエイリアシング(アジマスアンビギュイティ)です.表1に示したように,レーダのチャープ繰り返し間隔は25 msであり,飛行速度が1 m/sであるとすれば,チャープ間にドローンが進む距離は2.5 cmとなります.これはレーダの中心周波数である24.15 GHzの波長である1.24 cmの2倍程度になるため,図9のようにエイリアシングが生じてしまいます.この問題については,現在チャープ繰り返し時間を低減可能なレーダを用いることで対処を試みており,今後の課題です.

また,(x, y) = (11, 5) m付近に存在する応答はサッカーゴールからの反射ですが,これは次節でLiDAR画像とSAR画像を重ね合わせることでその正当性を確認します.

LiDAR画像との比較

再構成したSAR画像の正当性を検証するため,LiDARにより取得した点群データおよびオルソ画像との比較を行いました.図10に,SAR観測を実施したグラウンドのLiDAR三次元点群データを示します.図10(a)はRGBカラーで,(b)は高度の値でそれぞれ点群データを彩色した画像です.図10(a)に示すように,グラウンド上にはサッカーゴールとラグビーゴールが設置されており,グラウンド東側(画像右側)には樹木が,西側(画像左側)には草地と道路が確認できます.なお,本LiDARデータ測定時にはコーナリフレクタ等の目標は配置していないため,サッカーゴールの部分のみSAR画像との比較が可能です.

LiDAR三次元点群データ
図10: LiDAR三次元点群データ((a) RGBカラー,(b) 高度)

平面直角座標系で再構成したSAR画像は四隅の緯度経度を用いてジオリファレンスを行いました.図11に,LiDARのオルソ画像上にジオリファレンス済みのSAR画像を重ね合わせた結果を示します.重ね合わせにはGISソフトウェアであるQGISを用い,SAR画像は60 %の透明度で表示しています.図11(a)は測定を実施したグラウンド全体を示しています.ベースマップには地理院地図を使用し,円形の飛行経路も併せて表示しています.本実験では円軌道の中心に開口を西側に向けた三面コーナリフレクタを配置しており,円軌道の中心にこのコーナリフレクタからの強い応答が確認できます.

LiDARオルソ画像とSAR画像の重ね合わせ
図11: LiDARオルソ画像とSAR画像の重ね合わせ((a) 全体図,(b) 拡大図)

図11(b)はSAR画像の部分を拡大した画像であり,背景のLiDARオルソ画像と比較すると,サッカーゴールの位置にSAR画像の応答が現れていることが確認できます.この結果より,再構成したSAR画像は正しく地物の位置を表現していると考えられます.

まとめと今後の課題

本稿では,ドローン搭載SARシステムの開発状況および初期実験結果について報告しました.ペイロードはRaspberry Piをベースとして開発し,D-RTK 2を用いることでドローンの精密な位置情報の取得を行いました.本システムの初期検証として,円軌道によりSAR観測を行う円軌道SARの実験結果を示しました.現状ではSARフォーカシングの精度は悪く,本来期待される空間分解能が得られていない状態ではありますが,LiDARで観測した点群データおよびオルソ画像との比較も踏まえ,目標の応答が画像として観測可能なことが確認できました.

今後の最重要課題として,動揺補正もしくは軌道補正アルゴリズムの開発と実装が求められます.また,本システムを大型目標のレーダ散乱断面積測定に応用することを検討しており,現在実験を進めています.

謝辞

本研究はJSPS科研費 JP24K07473の助成を受けたものです.また,本研究の一部は富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社(FDNS)より助成を受けたものです.本システムで使用したミリ波レーダはPTM社およびサクラテック社より技術協力をいただきました.本研究にご協力いただきました各社に対し,深く感謝申し上げます.

参考文献

  1. T. Watanabe and H. Yamada, “Far-Field Radar Cross-Section Determination From Near-Field 3-D Synthetic Aperture Imaging With Arbitrary Antenna Scanning Surfaces,” IEEE Trans. Antennas Propag., vol. 70, no. 7, pp. 5831–5840, July 2022.

【発表情報】
渡邉卓磨,岡本竜駕,新谷貴之,「ドローン搭載ミリ波合成開口レーダの開発と円軌道観測への応用」,電子情報通信学会 宇宙・航行エレクトロニクス研究会(SANE),2026年2月.

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